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活動の内容

交通事故の怪我で健康保険を使用した場合に、加害者への求償は?(2010年12月)

はじめに

 交通事故相談所を訪れる相談者の中には、交通事故による怪我の治療は、「病院で健康保険を使えない」、「自賠責保険・自動車保険(任意保険)で治療費を支払ってくれるから健康保険は使えない」と、誤って認識されている方がいます。
 昭和43年に厚生省(現・厚生労働省)は、日本医師会に対して「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険などに対する求償事務の取扱い」という通達を出しました。通達の内容を簡単にいうと、「交通事故による怪我でも健康保険が使用できる」というものです。
 今回は、交通事故の怪我で健康保険を使用した場合に、治療後に健康保険組合から加害者に対し、高額な治療費の支払い請求がされた相談事例を参考にして説明したいと思います。

相談の内容

 相談者(加害者)は車を運転中、横断禁止場所を横断中の歩行者(被害者)をはね、右足骨折で3か月入院する怪我を負わせてしまいました。被害者は健康保険を使用して治療をしたため、治療費の支払分は比較的安価で済みましたが、実際には約130万円もの医療費がかかっていたのです。最近になり、被害者の健康保険組合から相談者に対し、「健康保険組合が病院に立て替えた医療費を支払ってほしい」との請求がありました。驚いた相談者は、「これは支払わなければいけないのでしょうか」と相談所を訪れたものです。

交通事故の怪我で健康保険が使用できるか?

 先に述べたとおり、交通事故の治療にも健康保険・国民健康保険・船員保険・労災保険等が使用できます。その際は、利用手続として保険管掌者である「健康保険組合・区市町村・社会保険事務所等」に申し出が必要で、速やかに「第三者行為による傷病届」を提出しなければなりません。
(1)健康保険診療は被害者にとって有利な制度
 健康保険を使用して治療した場合、治療費が自由診療(健康保険を使用せず自費で支払う場合)と比べて3分の1程度で済むことから、「加害者が自賠責保険にしか加入しておらず、賠償能力が不十分」である場合や「被害者の過失割合が高く、支払われる保険金が大幅に過失相殺されてしまう」場合などには大きな助けになり、その分休業損害や慰謝料などの損害賠償額に回すことができ、自賠責保険の支払い限度額120万円を有効に活用することができます。
(2)医療機関の保険診療義務
 交通事故の保険診療の申し出に、病院によっては拒否するところもあるようですが、事情を説明して保険診療の適用をお願いしてください。健康保険治療を申し入れても拒否された場合は、健康保険組合などに申し出てください。これまでの裁判では、「被害者が保険治療を申し出た場合には、医療機関はこれを拒否することはできず、保険治療を行う義務がある」との判決が出ています。
 このような話をしてもまだ拒否する病院は、早めに良心的な他の病院に移ることです。

健康保険組合の求償権について

(1)求償権とは
 交通事故の怪我で健康保険を使用して治療を行った場合に、本人負担分以外の治療費を健康保険組合等がいったん立て替えて病院に支払います。健康保険組合等は、被害者が有している加害者に対する損害賠償請求権を取得し、立て替えた治療費は加害者(第三者)に対して求償する権利が認められています。
(2)過失割合に応じた求償
 交通事故が全面的過失による場合は、すべての損害を賠償する責任があります。したがって被害者が健康保険を使用したことにより治療費の支払いを免れることはできません。
被害者にも過失がある場合には、過失相殺によって加害者が損害額の全額を支払う義務はありませんから、健康保険組合からの求償に対して、全額または一部の支払いを拒否することができます。例えば、被害者の一方的な過失による事故の場合は、加害者に全く責任がなく、賠償義務もありませんから、健康保険組合から求償があってもこれに応ずる必要はありません。
(3)本件相談者の場合は求償されるのか?
 本件交通事故の場合、仮に被害者側に過失が3割あるとすると、健康保険組合は立て替えた治療費のうち加害者が負担すべき7割について、加害者の自賠責保険や任意保険に求償することになります。今回の相談者は自賠責保険の加入だけであり、治療費130万円については、自賠責保険の支払限度額120万円を差し引いた額が、健康保険組合等から加害者である相談者に請求されることになります。相談所では、相談者に健康保険組合に対し被害者の過失相殺による減額について、再検討をしてもらうことをアドバイスしました。
相談者はアドバイスに基づき健康保険組合と冷静に話し合った結果、「当初の請求額の減額」に応じてくれ、今後は被害者と慰謝料の支払い等について話し合い中です。

おわりに

 交通事故で怪我の治療を健康保険で行った場合、「医師に嫌われるのではないか」、「納得のいく治療がうけられないのではないか」等の不安から被害者は躊躇しますが、治療に相違があるはずはなく健康保険による治療を検討される事をお勧めいたします。
 交通安全協会は都内8か所に「交通事故相談所」を開設し、無料で交通事故相談に応じていますので、一人で悩まずお気軽に利用してください。

交通安全ジャーナル2010年12月号から抜粋
知ってるよ いつもの道でも みぎ ひだり 免許証を 返す勇気が ふせぐ事故 歩道では 歩行者優先 忘れずに シートベルト 必ず締めよう 全座席 許しません 飲んで乗る人 飲ます人 運転は あごひもしめて 気もしめて 一台の 駐車が招く 事故・渋滞